わかりやすいディベートのしくみ 「⑦タイトル未定」
この記事を書いた人✐横山悠規
この記事はシリーズものです。過去の記事は下記リンクから。
「①ディベートの分類」
「②ディベートで成長するための心構え」
「③定義の重要性」
「④ふさわしくない定義」
「⑤主張の文章構成」
「⑥立論に求められる要素」
シリーズの目的
・「英語ディベートが苦手…」
・「英語での発言に自信がない…」
・「大会に向けて練習したい…」
そんな皆さんの悩みを解決するために、このコラムを書き始めました。
このコラムでは、ディベートにおける各スピーカーの役割や、各スピーチに含むべき内容とアドバイスについてお伝えしていきます
前回、立論に求められる要素として、SQ・Plan・APという3要素をお伝えしました。第7回はその要素をさらに深堀りしていきます。第7回は「立証責任」についてお届けします。
立証責任とは
ディベートの世界において、現状の政策や規則を変更するためには 立証責任("Burden of proof")と呼ばれる説明義務が発生すると言われています。政策論題を使用する際、肯定側は現状を変える立場となるため、肯定側立論では立証責任を果たすことを目標にスピーチを考える必要が出てきます。立証責任には、以下の6つの要素があります。
政策論題を用いた議論は、「今は許されているけど禁止しよう」「今は禁止されているけど合法化しよう」「今はAのルールだけどBのルールにしよう」という議論です。すなわち、政策論題=現状のルールに変更を加える提案である、と言えます。政策論題において肯定側が説明するべき内容をBurden of proof(立証責任)と呼びます。前述の通り、政策論題を用いた議論は現状を変える政策の可否を問う議論ですから、現状のルールを変えることの正当性を説明する必要があります。
- Harm(問題)
- Inherency(内在性)
- Topicality(話題性)
- Solvency(解決性)
- Significance(重要性)
- Justification(正当性)
※Policy debateではStock issuesと呼ばれています。Stock issuesは編纂者によって、HarmとSignificanceをSignificance of harmと呼んで4つだったり、Justification(正当性)を割愛して5つだったり、分類が異なる場合があります。今回のコラムでは代表的な6つを取り上げます。
6つの立証責任を、SQ・Plan・APの中で説明できると、立論がさらに深いものとなります。
6つの立証責任とSQ・Plan・AP
それでは、立証責任の要素を1つひとつ見ていきましょう。「宿題を廃止すべきである」という論題の肯定側立論を例にしています。
① Harm『問題』
これは「現状を変える理由の背景にある問題」について説明する部分です。現状のルールや当たり前を変えなければならない理由として、今どのような問題に悩まされているのかを説明します。今回の例で言うと、生徒の睡眠不足という問題についてです。
論題の背景にある問題、害悪がどんなものなのか、説明をする必要があります。もし問題自体が存在しないのであれば現状のルールに変更を加える必要はなくなります。 一言で言うと「現状のルールを変える理由の根底にある問題は何なのか」、ということです。
② Inherency 『内在性』
これは「論題と問題の関係性」について説明する部分です。先に提示した問題と論題がどのように関係しているのかを、具体的に説明しましょう。今回の例で言うと、論題(宿題を廃止すべきである)と問題(若者が睡眠時間を確保できていない)のつながりです。
問題はトピックと切り離せない、という説明が必要です。もしこの問題がトピックと切り離すことができる問題なのであれば論題で提示したルールの変更は必要がなくなります。一言で言うと「解決しようとしている問題とルール変更は切っても切れない関係なのか」、ということです。
例文
SQ(Status Quo:現状分析)
Recently, youths not getting enough sleep has been a huge problem.(若者が十分な睡眠時間を確保できていないことは、近頃大きな問題となっている。) …Harm
Homework is designed in such a way that the students are forced to sacrifice a large amount of their private time at home to finish it, because they have to work on time-consuming tasks, such as drills and essay composition.(ドリルや作文など、時間のかかる作業から分かるように、宿題は、家でのプライベートな時間を大幅に犠牲にしなければ終わらないように作られている。)…Inherency
③ Topicality 『話題性』
これは「解決策が論題の意図に沿っていること」について説明する部分です。解決策を提示し、それが論題の範囲に入っていることを説明します。
今回の例で言うと、解決策(プライベートな時間に行う宿題を課さないこと)は論題(宿題を廃止する)の範囲に入っていることを説明しています。
論題の意図にそった解決策である、という説明が必要です。もし論題の趣旨と異なる解決策の提案なのであれば、論題とは異なる議論になってしまうので、論題自体を変更する必要が出てきます。 一言で言うと、「その解決策は提案されているルール変更がそのまま実施される内容になっているか」、ということです。
④ Solvency 『解決性』
これは「問題解決までの過程」を説明する部分です。が必要です。提示した解決策で、どのように問題が解決されるのかを説明します。今回の例で言うと、解決策(プライベートな時間に行う宿題を課さないこと)で問題(若者が睡眠時間を確保できていない)が解決される説明です。
問題はこうやって解決していく、という説明が必要です。もし実現可能性が薄いのであれば、現状のルールを変更するリスクの方が大きくなってしまいます。 一言で言うと、「解決策は提示された問題を解決できるものなのか」、ということです。
例文
Plan(解決策と解決過程)
We can solve this problem by abolishing homework assigned by the teachers to force the students to work during their private time. (プライベートな時間に行う宿題を廃止することで、この問題は解決できる。) …Topicality
By implementing this plan, the teachers can no longer assign homework assignments to the students, so there will be no need for the students to allocate their private time to doing homework. As a result, they can secure enough time to sleep.(この解決策を導入することで、教師は宿題を出さなくなる。生徒はプライベートな時間に宿題をする必要がなくなるので、睡眠時間を十分に確保できるようになる。) …Solvency
⑤ Significance 『重要性』
これは「問題解決の重要性」について説明する部分です。問題を解決することでどんなメリットがあるか、またそのメリットが重要であることを説明します。今回の例で言うと、問題(若者が睡眠時間を確保できていない )を解決することでメリット(最大限の学習効果)を得るとしています。
現状のルールに変更を加えるので、その変更が重要なことである必要があります。もし重要なことでないのであれば、現状を維持した方が得策と言えます。 一言で言うと、「その問題解決はルール変更をするに値することなのか」、ということです。
⑥ Justification 『正当性』
これは「問題解決の正当性」について説明する部分です。正当化するためには、社会の流れや〇〇を出すと良いです。今回の例で言うと、 社会の流れ(仕事とプライベートの切り替えの推進)を正当化の理由としています。
現状のルールに変更を加えるので、その変更、解決策の実施が正当化できるものである必要があります。もし正当化できないのであれば、現状を維持した方が得策と言えます。一言で言うと、「その解決策の実施は正当化できることなのか」、ということです。
例文
AP(After Plan:問題解決後の世界)
After we implement this plan, the students will be well rested when taking classes at school, so they can focus much better on learning. It is crucially important to make it possible for the students to secure enough time to sleep during their private time in order to maximize the effectiveness of learning.(この解決策を導入することで生徒たちは十分に休息を確保できるため、授業中より集中できる。最大限の学習効果を得るため、プライベートな時間に十分な睡眠をとることは非常に重要である。)…Significance
Considering the fact that the labor laws for corporations stipulating the importance of maintaining a proper work-life balance and the Japanese Constitution guaranteeing the freedom of choice, it is natural that the schools follow the same logic.(労働法がワークライフバランスの適正化を定めていることや、日本国憲法が職業選択の自由を保障していることを考えれば、学校も同じ論理で考えるのが自然である。) …Justification
これら6つの立証責任を果たすことで、肯定側は現状を変えるルールの導入を正当化することができるのです。逆に言うと、立証責任の6つのうちどれかが欠けてしまうと、ルールの変更を受け入れることは正当化できない(説明が足りていない)、ということになります。
今回は「立論に求められる要素」をテーマにお送りしました。
次回のテーマは「立論の組み立て方」についてです。お楽しみに!